■被告
■本件
主文
1 1審原告らの控訴に基づき,原判決主文2項中,1審被告Aに関する部分を次のとおり変更する。(1) 1審被告Aは,1審原告B1に対し,2679万7240円,1審原告B2,同B3,同B4に対し,それぞれ1782万6253円及びこれらに対する平成7年8月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 1審原告らの,1審被告Aに対するその余の請求をいずれも棄却する。
2 1審原告らのその余の控訴,1審被告Cの控訴,1審被告D及び同Eの各附帯控訴をいずれも棄却する。
3 訴訟費用及び控訴費用の各負担は,次のとおりとする。
(1) 1審原告らと1審被告Aとの間に生じた費用は,第1,2審を通じて3分し,その1を1審被告Aの,その余を1審原告らの各負担とする。
(2) 1審原告らと,1審被告D,同E及び同Cとの間に生じた控訴費用及び附帯控訴費用は,各自の負担とする。
4 この判決は,第1項(1)に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 控訴及び附帯控訴の各趣旨
1 1審原告ら(1) 原判決を次のとおり変更する。
(2) 1審被告らは,各自,1審原告B1に対し9222万3960円,その余の1審原告らに対しそれぞれ2407万4653円及びこれらに対する平成7年8月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 訴訟費用は,第1,2審とも1審被告らの各負担とする。
(4) 仮執行宣言
2 1審被告C
(1) 原判決中,1審被告C敗訴の部分を取り消す。
(2) 上記取消にかかる1審原告らの請求をいずれも棄却する。
(3) 訴訟費用は,第1,2審とも1審原告らの負担とする。
3 1審被告D,同E
原判決中,1審被告D,同Eに関する部分を次のとおり変更する。
(1) 1審被告D,同Eは,各自,1審原告B1に対し2143万7792円,その余の1審原告らに対しそれぞれ1426万1002円及びこれらに対する平成7年8月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 1審原告らの1審被告D,同Eに対するその余の請求をいずれも棄却する。
第2 事案の概要
1 暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(以下「暴対法」という。)により指定暴力団の指定を受けている暴力団の3次組織の組員が,平成7年8月,京都市内において,別の指定暴力団の2次組織事務所の前で,警戒中の警察官を組員と誤認して射殺した。本件は,殺された警察官の遺族である1審原告らが,上記誤殺は暴力団抗争の過程で敢行されたと主張し,実行犯2名(1審被告D,同E)に対しては共同不法行為(民法709条,719条),実行犯の直属組長(1審被告C)については共同不法行為(同上)または使用者責任(同法715条2項,代理監督者の責任),さらに,その系列最上位の指定暴力団組長(1審被告A)に対しては,共同不法行為(同上。幇助を含む。)または使用者責任(同法715条1項)を根拠に,いずれも損害賠償及び誤殺当日である平成7年8月25日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金を請求した事案である。
原判決は,1審原告の1審被告D,同E,同Cに対する各請求の一部(1審原告B1に対し2679万7240円,その余の1審原告らに対しそれぞれ1782万6253円及びこれらに対する上記期間の遅延損害金)を認容し,1審被告Aに対する請求を棄却したため,1審原告ら及び1審被告Cがそれぞれ控訴(当審では,主として,1審原告らは1審被告Aに使用者責任がある旨を,1審被告Cは自らに共同不法行為責任がない旨を主張している。)し,1審被告D,同Eが附帯控訴(主として警察官の落度による過失相殺を主張している。)した。
2 前提事実(以下の事実は,いずれも当事者間に争いがないか,証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる。)
(1) 当事者及び相続関係
ア 1審原告ら
京都府警下鴨警察署巡査部長であった亡B5(昭和26年3月15日生,以下「B5警察官」という。)は,平成7年8月25日に死亡したが,1審原告B1は,B5警察官の妻,その余の1審原告らは同警察官の子らであり,法定相続分に従って同警察官の権利すべてを相続した(なお,1審原告らは,他の相続人である子1名から1審原告らの法定相続分に従い相続分の譲渡を受け,譲渡人である当該相続人1名は,別途,固有の権利である遺族共済年金,遺族基礎年金の受給権を行使することで合意している。)。
イ 1審被告ら
1審被告Aは,暴対法3条所定の指定暴力団の指定を受けている五代目F1組(本部・神戸市所在)の組長,F2(以下「F2」という。)は五代目F1組直参組員で暴力団F3(事務所・大阪市a区所在)の組長,1審被告CはF3の組員(副長)で暴力団C組(事務所・京都市b区所在)組長,1審被告DはC組の組員,1審被告EはC組組員F4(以下「F4」という。)の組織するF5の配下として,C組組員と行動を共にしていた者である。
(2) S事件の発生
平成7年8月24日(以下,特に断らない限り,月日は平成7年のことである。)午後11時19分ころ,C組組員F6(組長代行,以下「F6」という。),同組組員F7(舎弟,以下「F7」という。)及びF1組の2次組織である二代目F8の元副長F9(以下「F9」という。)の3名が食事に出た先の京都市内の繁華街Sで,指定暴力団G1の直参(小頭)であるG2組組長G2(以下「G2組長」という。),同じくG3組組長G3(以下「G3組長」という。),G4組組長G4(以下「G4組長」という。)の3名と出会って挨拶を交わした際,F7がG3組長の態度に立腹し,拳銃を発砲してG2組長の左腕に重傷を負わせ,F6もF7の発砲した拳銃の流れ弾により負傷した(以下「S事件」という。)。
(3) 本件誤殺事件の発生
1審被告Dは,平成7年8月25日午前4時13分ころ,1審被告Eの運転する乗用車(C組若頭F10所有,1審被告Cの弟F11登録名義)で京都市c区d町e番地先G2組事務所付近に接近し,同事務所前で警戒配備の職務についていたB5警察官をG2組組員であると誤認して拳銃3発を発射し,そのころその場で,同人を大動脈損傷,右外側上胸部盲管銃創による失血により死亡させた(以下,「本件誤殺事件」ないし「本件誤殺行為」という。)。
(4) B5警察官の死亡による公的給付等
ア 京都府退職手当金 1905万4332円
イ 遺族共済年金(警察共済組合から)
平成7年9月分から平成8年3月分 41万5622円
平成8年4月分から平成9年3月分 71万2496円
平成9年4月分から平成10年3月分 71万2496円
平成10年4月分から平成11年3月分 72万5165円
平成11年4月分から平成12年3月分 72万9388円
平成12年4月分から平成13年3月分 72万9388円
ウ 遺族基礎年金(社会保険庁から)
平成7年9月分から平成8年3月分 76万5800円
平成8年4月分から平成9年3月分 131万2800円
平成9年4月分から平成10年3月分 123万7500円
平成10年4月分から平成11年3月分 125万9496円
平成11年4月分から平成12年3月分 126万6996円
平成12年4月分から平成13年3月分 103万5600円
エ 公務災害遺族補償年金(地方公務員災害補償基金から)
平成7年9月から平成8年5月分 552万5175円
平成8年6月分から平成9年3月分 613万9082円
平成9年4月から平成10年3月分 683万9500円
平成10年4月から平成11年3月分 697万3700円
平成11年4月分から平成12年3月分 710万7800円
平成12年4月分から平成13年3月分 646万7199円
オ 公務災害葬祭補償金 120万2760円
カ なお,遺族共済年金,遺族基礎年金,公務災害遺族補償年金は,各年度(4月から翌年3月)ごとに6回に分けて支払われ,第1期分が6月に支払われ,以後,8,10,12,2,4月に支給される。
3 上記2(3)の事実及び後記第3の1(5)ウの「本件誤殺事件」の事実によれば,1審被告D及び同Eが,民法709条,719条により,本件誤殺事件によって1審原告らに生じた損害を賠償すべき責任があることは明らかである。
4 主たる争点及びこれに関する当事者の主張は,以下に訂正するほか,原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」のうち,「2」ないし「4」記載(原判決4頁16行目から27頁3行目まで)のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決8頁20行目の「発砲事件」の次に「(以下「14連発抗争事件」という。)を加え,22行目の「抗争」を「抗争事件」と改める。
(2) 同17頁7行目の「若頭名義」を「若頭所有」と改める。
(3) 同26頁8行目の「40パーセント」を「20パーセント」と改める。
第3 争点に対する当裁判所の判断
1 認定事実証拠{甲A3ないし6,12ないし21,24ないし50,甲B1ないし3,35,37ないし40,41ないし82,86ないし90,92ないし99,甲C1ないし25,27ないし29,甲D1ないし18,乙1ないし8,丙1,2(枝番のあるものはすべて枝番を含む。),証人H1,同H2,同H3,1審被告C本人(下記認定に反する部分を除く。)}及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。
なお,1審被告Aは,1審原告らが,本訴において提出する証拠のうち,暴力団の一般的な組織の状況,暴力団の関係,F1組の組織,1審原告の主張する傘下の団体との関係等に関するものは,伝聞・再伝聞,もしくは風聞の類を集めたものであったり,それ自体が本来立証対象であるべき結論を記した他人の「意見」を証拠として提出している旨主張する。確かに,後記「(1) 暴力団と抗争等について」「(2) 五代目F1組及び傘下の組織について」「(3) F1組とG1との関係について」に関する証拠には,警察官の陳述及び供述,論文,雑誌・新聞の記事等の中には,1審被告Aが主張するような性格の証拠もあり,証拠価値に検討すべき問題のあるものが存在することは,指摘のとおりである。
しかしながら,雑誌の記事等の根拠が明らかでないものや,もっぱら推測等に基づくものは別として,警察の調査結果や報告書,警察官の陳述及び供述は事実に関する体験や見聞が含まれ,評価を含む意見についても,自らが暴力団組織,犯罪の捜査や調査に関わってきた中で直接見分し,または取得し得た知識や経験に基づくものであって,相当の根拠のあるものである。そして,これらの証拠の大部分が,個別にはともかく重要な部分において一致するものが多いのであり,全体としては十分信用することができるということができる。しかも,1審被告Aは,その地位からして,これらに関する反証活動は極めて容易であるにもかかわらず,一部を除いてほとんど反証活動をしていない。
したがって,上記各証拠等について,その信用性を十分検討の上,事実認定の資料とすることは何ら問題がないというべきである。
(1) 暴力団と抗争等について
ア 暴力団の基本的性格
現在の暴力団組織の沿革は,戦前からの博徒,的屋等の伝統的やくざと称すべき組織のほか,戦後における愚連隊等の新興不良集団の流れを汲む組織など,各組織によって様々であるが,その共通した性格は,暴力を組織化することにより形成される威力を背景に,合法的な経済活動に止まらず,非合法的な経済活動や犯罪行為を通じて利益の獲得を追求するところにある。すなわち,暴力団組織の威力(威嚇力)を背景にして,いわゆるフロント企業による経済活動のほか,示談への介入,債権取立て,倒産企業への介入等のいわゆる民事介入暴力による不当な利益,縄張りを中心とした賭場開帳や,みかじめ料の徴収,薬物取引・売春等による不法な利益の獲得をすることにある(以下,組員の仕事のうち,これら暴力的威力を背景としてなす生計としての資金獲得行為を「シノギ」ということがある。)。
そして,暴力の集約に不可欠な強固な組織の結びつきを維持するため,一般には,組長と組員は盃事といわれる秘儀を通じて親子(若中),兄弟(舎弟)という家父長制を模した序列的・擬制(似)的血縁関係を結び,組員は親分(組長)に対する全人格的・包括的な服従統制下にあり,内部的には組の一家,一門意識を持ち,対外的にはこのような一家・一門の組織を侵害されてはならない至高の存在と考え,排他的な行動傾向を有しており,新規加入者もこのような思考様式,行動様式を反復して次第にこれを身につけていくことになる。
また,暴力団は,実態として,暴力的な性向を有する者や,暴力事犯の前科前歴を有する者を多数構成員としていることが多い。
したがって,暴力団は,他の社会的な集団に比べて,暴力性,不法・不当な利権性,組長の統制による強固な組織性を特徴としてもつ集団ということができる。
イ 暴力団及び暴力団員の行動傾向等
暴力団は,上記のように,暴力を組織化することにより形成される威力を背景に,非合法的な経済活動をも行って利益を追求する団体である。
社会におけるこのような威力の通有性は,行使する側の暴力の強さに裏打ちされると共に,これを受ける側の心理(恐怖)に依存するという構造を持つから,暴力団が,組織の維持拡大,縄張り(資金源)の維持拡大を図るためには,集団の威力としての現実的な暴力を行使して警察の摘発の対象となるよりも,集団の威力の外的イメージ(暴力による恐怖のイメージ)を維持拡大することの方が,経済性,合理性に適うこととなる。このため,暴力団にとって,組織の威力の象徴であるいわゆる「代紋」や暴力団の組員としての「面子」が傷つけられることは,時には,築き上げた暴力団の威力を大きく脅かすものとして,いかなる犠牲を払ってもこれを徹底的に排除されるべきであるとの独特の論理がまかり通ることになる。
したがって,暴力団の組員に負わされる本質的な役割活動は,シノギとして行われる資金獲得活動を除けば,組長との擬制的血縁関係を結ぶことにより一体となった組織暴力,ひいては,これを背景とする威力(暴力による恐怖のイメージ)を維持拡大する活動が最も重要なものであり,暴力団の組員は,場合によってはたとえ相手を殺害しても「面子」等を守ろうとする傾向が生じることとなる。
また,暴力団が上記のような特徴をもつため,競合する組織に打ち勝って威力の通有性を高めるのは,基本的には,組織された暴力の強さ,大きさであり,組織の自己増殖作用は暴力団組織にとって宿命ともいうべき活動原理であり,新規組員の加入ばかりか既成の弱小組織を併呑することにより寡占化が進み,全国には広域暴力団といわれる大規模組織暴力団の誕生をみることになった。
一方,弱小組織の暴力団においては,暴力の強さで大組織に対抗することは困難であり,敗北することにより存在の基礎を失うよりも大組織に連なることによりその威力を背景にして,組織を維持することが合理的であることから少しでもその威力が大きな暴力団の傘下に加入しようとする傾向が生まれる。
ウ 暴力団の抗争
暴力団員のシノギ,それを支える縄張りと組の威力の維持活動,さらには,より多くの利権を求めてのこれらの拡大行為は,縄張りの競合,あるいは資金源を求めて新たに縄張り内に他の組織が参入するなど秩序を脅かす要因となり,暴力団同士の間に緊張・軋轢が生まれることとなる。
そして,縄張りにおける専権的優位性の確保は,組織同士の裸の力関係,すなわち,人的,物的暴力装置の強さとそれを背景とする威力の大きさ(暴力イメージの強さ)に規定されるから,暴力団にとって,これを不断に維持することはその存立目的維持のための不可避的活動とならざるを得ない。
そして,そのような軋轢が高じたり,組員が組活動の延長線上で,理由の如何を問わず対立組織から生命身体に攻撃を受けるなど組の威力を直接脅かす事態が発生した場合だけでなく,些細な個人間の紛争であっても,それが飛び火して組の威信(面子)を賭けた争いになった場合には,敗北すれば暴力団社会から軽んじられ,場合により組織を維持することも困難となるため,組の威力・威信を賭した対立に発展することも多く,問題の解決のために互いが組織的対応として,一連の暴力を駆使して相手方の組織との間で凶器を使用した違法な戦闘闘争を行うのがいわゆる暴力団抗争である。そして,組織上は下位に位置付けられる2次組織(当然にそれに連なる下位組織を含む)同士の固有の抗争であっても,それは一面では1次組織の代紋(威力)を背負った抗争であり,これが上位組織に波及してその介入を招く場合は,傘下の組織横断的な抗争参加をみて大規模抗争に至ることとなる。
しかし,抗争は,一方で,幹部組員の検挙,場合により警察の手入れを受けて組織の潰滅を招き,さらには,逮捕勾留された組員の保釈金,弁護費用,差入れ,見舞金,家族の生活費等多大の資金を要して組織の経済的弱体化を招来するのみならず,警察の取締の強化,マスコミによる厳しい指弾,市民の暴力団排除運動等の高まりもあって,上記のような犠牲や社会的非難を補って余りある場合や,組織の面子を賭けても対立組織を組み伏せなければならない場合等を除いては代償が大きいものであり,大規模組織による寡占化,系列序列化の強化された現在では,下部組織間の抗争段階で上部組織が介入して手打ち(和解)をし,あるいは,互いが面子を維持できる均衡の条件が整った場合等も早期に手打ちをして終息を図り,抗争には絶えず自重的・謙抑的になる契機が作用する社会情勢にあり,全国の大規模組織を率いる指定暴力団の間にも幹部同士が義兄弟の盃を交わすなど,表面的には友誼関係を結んで,傘下組織同士の抗争が発生しても,できるだけ親(指定暴力団)同士の抗争には拡大しないように対処するというのが共通認識となっているといわれている。
しかし,指定暴力団系列の異なる傘下組織同士,さらには同一系列の傘下組織同士であっても,地元では縄張りを食い合うし烈な競争もあることから,組織間の紛争がなくなるわけではなく,これがいったん抗争に発展した場合,組員は組織内の序列に関わりなく戦闘的に抗争に参加することを強要され,敵前逃亡的行為は許されないのが建前であり,その代わり個々の組員が示す犠牲的献身(組長や幹部に検挙等の累が及ぶことを回避し,具体的な指示を受けなくとも,組長の意思,方針を忖度して,いわば鉄砲玉となって抗争の最先端に身を委ねる。)が組への貢献と評価されて,組織内序列を登る糸口となっており,ときには,これを千載一遇の機会として,功を焦って一匹狼的に暴発的行動をとる者もあるといわれている。
そして,対立緊張関係にある他組織との抗争については,たとえ,下部組織の抗争が手打ち等によって上部組織間の大規模な抗争にまで発展しなかったとしても,抗争・手打ちの内容等によっては,上部組織の威力・威信に影響が生じることは避けられず,上部組織としても下部組織の抗争に重大な関心を持たざるを得ないこととなる。
エ 暴対法の規制
暴力団については,前記アないしウのような社会的な実態があり,暴力団による反社会的行為が広く行われ,また,暴力団の対立抗争事件に一般市民が巻き添えによる被害を被る事例もみられたことから,これに対応するため,平成3年5月15日,暴対法が制定された。同法は,「暴力団員の行う暴力的要求行為等について必要な規制を行い,及び暴力団の対立抗争等による市民生活に対する危険を防止するために必要な措置を講ずるとともに,暴力団員の活動による被害の予防等に資するための民間の公益的団体の活動を促進する措置等を講ずることにより,市民生活の安全と平穏の確保を図り,もって国民の自由と権利を保護することを目的」としている(同法1条)。
同法の中では,暴力団は,「その団体の構成員(その団体の構成団体の構成員を含む。)が集団的または常習的に暴力的不法行為等(爆発物取締罰則に規定する罪,暴力行為等処罰に関する法律に規定する罪など同法別表に掲げる罪のうち国家公安委員会規則で定めるものに当たる違法な行為をいう。同法2条1号)を行うことを助長するおそれがある団体をいう。」(2条2号)と定義され,同団体の中で,都道府県公安委員会が,「その暴力団員が集団的または常習的に暴力的不法行為等を行うおそれが大きい暴力団」を指定するものとし(指定暴力団),その要件として,@ 実質目的要件(経済的利益を図るため,暴力団の威力を利用すること),A 犯罪経歴保有者比率要件(暴力団の幹部である暴力団員の人数に占める犯罪経歴保有者の人数の比率が一定の比率を超えること),B 階層的構成要件{代表者(組長)の統制の下に階層的に構成されていること}があげられている(3条)。そして,指定暴力団等については,暴力団員の暴力的要求行為の規制等(2章),対立抗争時の事務所の使用制限(3章),加入の強要の規制その他の規制等(4章)が規定されている。
本件誤殺事件と近接する平成7年2月15日現在,25団体が指定暴力団に指定され,そのうち,暴力団員数1000人(傘下の構成員を含む。)を超える指定暴力団は以下のとおりである(記載は,名称,本拠地,勢力範囲,暴力団員数の順である)。
(ア) 五代目F1組 神戸市 1都1道2府38県 約2万3100人
(イ) I会 東京都 1都1道1府15県 約8000人
(ウ) J会 東京都 1都1道22県 約7400人
(エ) K会 東京都 1都1道17県 約2300人
(オ) L会 東京都 1都1道8県 約1800人
(カ) 四代目G1 京都市 2府1道1県 約1600人
(以下,1審被告Aと盃事により擬制的血縁関係を結んだ組員によって構成される組織を「五代目F1組総本部」もしくは「1次組織」と,五代目F1組総本部及びその傘下の下部組織を含めた組織を「五代目F1組」と,歴史的に傘下組織を含むF1組を「F1組」と表記する。)
(2) 五代目F1組及び傘下の組織について
ア 沿革
F1組は,M1が大正4年,神戸市内で現在使用しているM2の代紋を掲げて博徒集団「F1組」を結成し,人夫供給や賭博開帳等の資金獲得活動を行ったのが始まりで,二代目M3が神戸港における港湾荷役に係る人夫供給等の利権のほか,浪曲の興業等の利権に手を広げた。昭和21年6月,三代目組長にM4が就任した後は,神戸港における港湾荷役の利権を独占し,興行等の利権の支配権をも確立して神戸市最大の組織となり,昭和30年代に入ると,全国進出を企図し,全国各地の地元暴力団と対立抗争事件を反復した。これらの対立抗争は,単なる暴力事件に止まらず残虐な殺人事件等を伴うことも少なくなく,F1組の暴力性の強さを示し,その威力(暴力のイメージ)を拡大することとなり,対立抗争における勝利や,F1組の傘下に連なる暴力団の増加等により全国各地に勢力を拡大してわが国最大の広域暴力団組織となり,昭和54年ころには傘下の構成員1万人を超える大組織となった。
もっとも,F1組の1次組織の構成員である直系組長は,せいぜい119人前後であり,実際には,直系組長の判断においてその傘下組織がいわば戦闘部隊となって組織横断的に抗争を敢行し,繰り返してきたものである。
M4死亡後,昭和59年6月,四代目組長にM5が就任した後も,これを不服とする幹部の結成した脱退組織(M6)との間に互いの組織を挙げた全国的な抗争を展開して勝利し,M6は解散した。このような中,組長の暫時の空席を経て,平成元年7月,1審被告Aが五代目組長に就任し,自らを頂点とする擬制(似)的血縁関係を構築し直し,三代目時代を凌ぐわが国最大の組織暴力団としての勢力を誇示し,その集団的暴力を背景とする威力は,同様の大規模組織であるJ会,I会,K会,G1等々を凌駕するほどとなっている。
イ 現状
平成7年2月15日現在の五代目F1組の状況は,前記(1)エのとおりであり,平成4年6月に兵庫県公安委員会から暴対法3条の指定暴力団に指定され,平成7年,平成10年及び平成13年の各6月に再指定されている。
ウ 組織の形態と構造
(ア) 基本的関係
1審被告Aは,五代目F1組総本部の親分(組長)として,平成7年末現在合計119人の弟分(舎弟)または子分(若中)と盃を交わし,親子・兄弟の擬制(似)的な血縁関係を締結して五代目F1組の1次組織を形成している(1審被告Aのいう「五代目F1組」はこれに当たる。)。
1次組織を構成する組員は,直参あるいは直系組長と呼ばれ,F1組の組織内で特別の地位にあるものとされている。
1次組織を構成する上記弟分または子分は,自らが親分(組長)となり,弟分(舎弟)または子分(若中)と盃を交わして親子・兄弟の擬制(似)的な血縁関係を締結して2次組織を形成している。なお,2次組織は直系組長が組織することから直系団体と呼ばれることもある。
さらに,2次組織を構成する子分または弟分は,自らを親分(組長)とし,弟分(舎弟)または子分(若中)と親子・兄弟の擬制(似)的な血縁関係を締結した3次組織を形成しており,以下同様の擬制(似)的血縁関係を基にした組織が5次組織まで形成されている。
その体系図は,別紙のとおりであり,傘下の下部組織を含むF1組全体の規模は,前記(1)エのとおりであり,1審被告Aを頂点とするピラミッド型の階層的組織を形成している。
下部組織は,自らを表示する場合,「五代目F1組F3二代目C組」というように,必ず「五代目F1組」を冒頭に掲げ,以下,2次組織,3次組織そして自らの組織の順に表示し,五代目F1組総本部傘下の階層的な下部組織であることを明示している。
しかし,個々の下部組織それ自体も一個の独立した暴力団の組織としての実体を失っておらず,下部組織の構成員(以下「下部構成員」という。)は,その所属する組長がその直属の上部組織の構成員となり,さらに上部組織の組長がさらにその直属の上部組織の構成員となり,最終的に最上部組織である五代目F1組総本部の組長である1審被告Aに収斂されていくという関係にあるだけで,下部構成員は上部組織の組長と直接盃事を交わして擬制(似)的血縁関係を結ぶことはなく,自らが盃事を交わした組長を通じての間接的な関係で,直属の組長が上部組織の系列を変更したり,死亡,引退,破門等により上部組織を脱退した場合には,傘下の下部組織も上部組織との関係を当然に解消されるのが組織原理となっている。そして,F1組の階層的な組織は,上部組織と下部組織との関係が一定の目的の下に有機的に結合された権限分配という職位的な体系が構築されることにより,階層的に序列化されているわけではなく,固有の組織が擬制的な血縁関係を結んだ組長間の序列に従って,序列化されているに過ぎない。
(イ) F1組綱領の存在
五代目F1組総本部では,傘下の下部組織を含む五代目F1組の組員の行動規範としてF1組綱領(甲B13)を定め,綱領が記載された書面(中央上方にはF1組の代紋であるM2マークが印刷されている。)を作成し,これをその総本部事務所に掲示しており,2次組織以下の多くは同綱領を組事務所に掲示している。
(ウ) 意思決定の体制
1次組織における組員人事,他組織との関係処理,警察対策など組織運営に関する最終的な意思決定は組長である1審被告Aが行うこととなるが,1次組織の日常の常務の意思決定や執行については,「執行部」と呼ばれる舎弟頭,若頭,総本部長,副本部長,舎弟頭補佐,若頭補佐の15人(平成6年5月現在)で構成される幹部会が合議制で行い,重要事項は執行部に最高顧問,顧問が加わって(最高幹部会)決定し,直系組長を本部に招集しての総本部定例会が毎月5日に開催され,これらの合議体により,直系組長への昇格者,組からの破門,除籍,抗争に関する連絡,2次組織以下の抗争放免者,他の組織との手打ちの結末,2次組織以下の紛争が抗争,私事紛争のいずれかの認定等が決定されている。
しかしながら1次組織の各役員は,1審被告Aと盃を交わし,擬制(似)的血縁関係における弟もしくは子であり,親であり組員人事権を有している1審被告Aの最終的な意思に反することはできず,その意思を忖度して行っており,最高幹部会の決定も,被告Aの最終的な意思には反することはできないのであり,結局,1次組織における執行部等の決定,指示等は,1審被告Aの意思と同視することができる。
そして,五代目F1組は,傘下の組織を,関東,中部,大阪(北,中,南),阪神,中・四国,九州の8つのブロックに分けて,直系組長をブロック長とする系列の下に置き,ブロックを単位とする地方での組織運営を行っている。
(エ) 2次組織以下の下部組織及び下部構成員に対する1審被告Aの意思等の伝達等
2次組織以下の個々の下部組織(以下「下部組織」という。)は,それぞれが組長と擬制(似)的血縁関係を結んだ組員による一個の暴力団組織を形成し,1次組織に対して一定の独立性を持っているが,上記(ア)のような組織構造下で,1次組織の下に階層的に統制されており,1次組織において,執行部,最高幹部会,定例会によって決定,指示された事項は,「五代目F1組総本部寄合事項」,「五代目F1組総本部定例会事項」,「五代目F1組総本部執行部」,「五代目F1組総本部一同」等の名義による「通達」・「通達書」・「通告」・「告」等と題する文書により,全国8地区のブロック長を通じて,もしくは直接,直系組長の2次組織に連絡され,時には総本部名でファクシミリで指示事項が送信され,末端の5次組織の組員を含めた全体を五代目F1組総本部(1次組織)の指揮命令に従うべき組員として取り扱っている。
その状況は,下記のような具体的な統制等の事例に表れているとおりであり,下部構成員に対して,抗争に関する指示から組員の生活に関する事項まで事細かに指示決定事項を伝達し,また,伝達を徹底するように2次組織の構成員に指示している。
このように,F1組では,1審被告Aの意思またはその意思と同視できる1次組織幹部会の意思が各下部組織の組長を通じて下部組織及び下部構成員に伝達,徹底される体制が採られている。そして,各組織の組長と組員,下部組織の組長と直系上部団体の組長との間には,擬制(似)的血縁関係による強い結びつきがあるため,伝達された指示や決定等は,下部構成員に対しても強い拘束力・強制力を持ち,これに反すれば,指詰め等の制裁を受けることもある。
a 「告」の存在
五代目F1組総本部名で「告」(甲B63)が作成され,その中で,@「F1組組員は常に綱領を順守し徹底しなければならない。」とされているほか,A「F1組組員は常にその地域の組織充実強化の為,団結しなければならない。」,B「F1組組員は他団体との抗争発生の場合,速やかにその状況及び理由等を総本部に報告しなければならない。」,C「F1組組員は如何なる理由があろうとも内部抗争は絶対阻止しなくてはならない。万一事故発生の場合速やかにその地域の幹部に報告し,その指示に従わなければならない。」,D「F1組々員は理由の如何を問わず内外団体の区別なく破門絶縁者に関与してはならない。」などと1次組織の構成員だけでなく傘下の下部組織の構成員もF1組組員と呼んでその行動の指針を示している。
b 「通達」等連絡文書
@ 五代目F1組総本部定例会事項(甲B17,平成3年2月)
「F1組々員がかなりの人数になりましたが,これからのF1組は,組内の統制の問題がこれからの大きな課題と思います。特に官憲の取締の対象になる事も多くなる事と思いますので,内部の統制と末端組員まで心新たにするようにしてください。」。
A 五代目F1組総本部寄合事項(甲B18,平成3年6月6日)
「ア 代紋違いの者を舎弟などにする場合は,本部に申告して親分の了解を得て後縁組みすること,イ 各組より組員を当番やその他の部署に多人数招集させておりますが,いろいろと出物が重なりますので,此の件について各組分担で支援金の負担をしていただきます。」。
B 五代目F1組総本部定例会事項(甲B19,平成3年10月6日)
「毎月定例会で通達している件についてその都度集会で発表される議題や問題事項を末端組員まで浸透するように徹底させていましたが,いまだにそれがなされていない組が多々ありますので,これからは末端組員に至るまで議題事項の浸透を徹底指導してください。」
C 五代目F1組風紀委員一同名の注意事項(甲B20,平成2年9月)
「総本部周辺での小便,違法駐車,煙草,空き缶などのポイ捨てなど地域住民のみなさまに迷惑になるような事は一切厳禁する。以上末端組員まで伝達して徹底させて下さい。」
D 五代目F1組執行部名の通達書(甲B21,平成2年9月25日)
「五代目F1組の親戚団体である三代目N1会内部の会員処分に対する五代目F1組の指針を執行部一同協議の結果左記の通り決定致しましたので,傘下全組員にその旨通達厳守をお願いします。
『三代目N1会の決定による絶縁及び破門者との交友は,理由如何を問わず一切厳禁する。』」
E 五代目F1組総本部名のファクシミリ(甲B26,平成2年6月30日)
「今回の不祥事による,犠牲者の冥福を祈るため,喪が明けるまで全F1組参加団体は,喜び事行事を全面中止するように。右厳守して下さい。」
(F1組とN2組の抗争事件の際に市民誤殺事件が発生したことを受けて,F1組が傘下組織に対して一切の喜び事を中止するよう指令した際のものであり,甲B27は,同事態の下で,同日付けでN2組に対する攻撃中止を指令するファクシミリである。)
F 五代目F1組総本部名のファクシミリ(甲B28)
「F1組傘下組員は,平成2年12月24日午後3時付をもって,N2組に対して一切事故を起こしては為らない。」
G 神戸総本部より伝達(甲B66)
「当本部に家宅捜索が入ったら『警察署名』『事件の内容』を当番責任者氏名を書き入れ総本部へFAX送信する事」
H 五代目F1組総本部名の抗争時の内部規約(甲B96)
「(一) トラブル以前に再方(当事者)を名乗らすこと。内輪であるかないかの確認をはっきりさすこと。
(二) それでも事故が起きた時は,当事者の組長を呼び2次抗争を絶対に起こさないように各ブロック長が責任を持って処理する。
(三) ブロック長は総本部に通達を入れること。総本部長は事故と把握した中で,緊急幹部会を招集する。関係当事者を呼び幹部会審議を計り,処分を検討する。厳正な処置とする。
(四) 親分の承諾を得る。」
I 総本部決定事項(甲B97)
「◎ F1組内の縁組厳禁
F1組内に於る理由は如何を問わず直参は勿論のこと,2次3次末端組織に至るまで厳禁とする。
◎ F1組内のトラブル
F1組内に於ける抗争もめ事は一切厳禁とする。万一トラブルが発生した場合速やかに報告し処理すること又事故処理に携わるブロック長執行部は公平で的確な判断処理をする事。特に地位(座布団)で威圧するような事があってはならない。特に執行部等の幹部の所属する傘下組員には厳しく指導する事。」
(オ) 下部組織の組員の加入脱退における五代目F1組執行部の関与
下部組織も組長と組員の擬制(似)的血縁関係を基礎とする独立した組織ではあるが,五代目F1組では,下部組織がその構成員としての加入を認めるかどうかは,五代目F1組総本部の方針(1審被告Aの意思)に反しない範囲でなされなければならず,「代紋違いの者を舎弟などにする場合は本部に申告して親分の了解を得た後縁組する」(甲B18)などのように,下部組織が1審被告Aの同意なしには組員を加入させることができない場合もある。
(カ) 慶弔規定による五代目F1組内部の表彰等
五代目F1組総本部には,下部構成員を含むF1組の組員全体を対象とする慶弔審議委員会決議による「慶事に関しての規約」という慶弔規定(甲B24)があり,これにより,他組織との抗争に参加し服役した者を本抗争服役者(F1組の組織総力を挙げての抗争による服役者),準抗争服役者(下部組織だけの抗争で5年以上の服役者),認定外抗争服役者(他の傘下組織の抗争に参加した服役者)に区分けして,本抗争時に目覚ましい活躍をして服役するという犠牲的献身を示した下部組織組員については,刑の確定時に系列上の直系組長からF1組総本部に対し,抗争の日時,場所,相手方,抗争内容(射殺等),直属団体名,組員(放免者)氏名,罪名,服役刑務所,刑期,出所日を記載した「本抗争放免祝請願書」を提出させ,これを承認した場合は,時には被告Aも出席して,本部で「金メダル」や少なからぬ功労金等を交付するなどの放免祝等を実施し,準抗争功労者の放免祝いは,本部慶弔審議委員会に届け出ることにより各ブロック毎にブロック内直系組長を出席させて実施し(なお,認定外抗争の服役者は準抗争功労者扱いとする。),それ以外の放免祝いは下部組織内においてその判断で行うという指針を示し,本抗争参加者の中でも顕著な功績のあった事例では,極道歴を考慮して直系組長に昇格させることがあり,これが当該組員や上位直系組長の大きな栄誉というばかりでなく,F1組内での幹部,役職登用等の序列階段を上がる途が開かれる可能性もあり,さらにこれを背景とした大きな威力を獲得して組内部での勢力地図を塗り替えることもある。
上記慶弔規定は下部組織まで履行遵守を予定し,同規定に則って,実際にF1組総本部で,下部構成員の放免祝いがなされた例が多数あり,放免祝いを受けた者から御礼御挨拶状(甲B48,ないし50)が関係者に送付されている。そして,1審被告C,C組若頭補佐についても,F1組総本部で放免祝いがなされ,上記同様の書面(甲B51,52)が関係者に送付されている(なお,1審被告Aは,上記慶弔規定は,本件誤殺事件より3年前に廃止されていた旨主張するが,上記御礼御挨拶状ほか各書面は,平成7年1月から平成9年1月までの日付になっており,上記慶弔規定が廃止されていたとは考えられないし,仮に形式的には廃止があったとしても,本件誤殺事件当時,運用は同規定通りに行われていたと認めることができるから,1審被告Aの主張は採用することができない。)。
(キ) 下部組織及び下部構成員の意識等
前記のとおり,五代目F1組では,1次組織のみならず下部組織及び下部構成員を五代目F1組の規律に服すべき構成員として取り扱っており,下部組織及び下部構成員も,下記の事例に見られるとおり,直接の上部組織または自らの所属組織だけでなく,1次組織である五代目F1組総本部への帰属意識も強い。
a 下部組織の事務所には,F1組綱領が掲げられており,F3及びC組でも本件誤殺事件当時同様であった。
b 下部構成員は,F1組の代紋を表象するM2のバッジを着用し,「五代目F1組」を冠した名刺(甲B10,68,69)を使用し,挨拶状(甲B11,53ないし61)にも五代目F1組を冠して自らが五代目F1組の傘下の組員であることを明示し,五代目F1組総本部もこれを容認している。
下部組織も,下部構成員の破門,絶縁,除籍等の処分を関係者に通知する書面(甲B12)に,M2の代紋をあしらい,下部組織の名称表示の冒頭に「五代目F1組」を冠している。
(ク) 上納金制度
被控訴人Aは,本件誤殺事件当時,1次組織の組員から,毎月,舎弟,若頭補佐以上が150万円,若中が65万円の各上納金を受け取っていた。
そして,2次組織以下の下部組織の組長も,所属組員から,その額は別にして,毎月同様の上納金を受け取っていた。
エ F1組と対立抗争
前記のとおり,五代目F1組に至るF1組の歴史において,F1組は,1次組織から下部組織まで含めて,他の暴力団組織と多数の対立抗争を経験しており,「F1組の歴史は抗争の歴史である」と言われることもある。
対立抗争によって,F1組は,一般市民だけでなく,関係暴力団組織に対しても威力を誇示し,これによりF1組の下部組織に連なる暴力団が増え続け,前記(1)エのとおり,下部組織の構成員を含む暴力団員数では,わが国最大の規模になっている。
警察庁の統計によれば,昭和54年の暴力団員は10万6754人で,うちF1組のそれは1万1846人であったが,平成2年の暴力団員は8万8259人で,うちF1組のそれは2万6120人と,全体の暴力団員が減少する中で,F1組の暴力団員は急増していった。
1審被告Aが,F1組を承継して五代目F1組となった後も,下部組織の分を含めて多数の対立抗争事件が生じており,その中で,平成元年11月に山形県で発生したN3会との抗争事件は,1都4県に波及し(参加した五代目F1組下部組織は,構成員を殺害されたN4組のほかに,N5組N6会,N7会など14組織である。),五代目F1組の東北進出へのきっかけとなったとされ,平成3年6月福岡県で発生したN2組との抗争事件は,1都5県に波及したが(参加した五代目F1組下部組織は,組員を殺害されたN8会系の組織のほかに,N5組N9興業,同N6会,N10組系N11興業など12組織である。),この抗争によって五代目F1組は西日本地域での覇権を確立することができたとされる。
なお,五代目F1組は,暴力団勢力,暴力団構成員に占める五代目F1組の割合よりも,検挙人員に占める五代目F1組のそれの割合の方が高くなっており,暴力団組織の中でも犯罪性の高い構成員が多い組織となっている。
(3) F1組とG1との関係について
ア G1は,幕末時にO1が京都に組織し,全盛期には子分1万人ともいわれる京都最大の博徒組織となったが,二代目の死亡により一旦消滅し,戦後,二代目G1の系統を引くO2が起こした博徒集団O3会が京都での勢力を確立し,昭和35年10月,O4が二代目を承継し,O3会を中核とした関連の組組織を統合したO3連合会を結成して会長に就任した。
そして,昭和50年にO3連合会を解散して,名跡を継いだ三代目G1会に再統合し,昭和61年にO5が四代目(一時期名称を四代目G1と改めた。)を,平成9年2月にO6が五代目G1を承継し,主として京滋地区を縄張りとして現在に至っている。
イ 三代目F1組は,積極的に全国に勢力を拡大し,とりわけ,関西では京滋地区を除き最大の組織となっていたが,京都ではO3連合会(G1)が依然確固とした縄張りを維持していたため,F1組傘下組織が相次いで京都に進出した昭和30年代半ばごろからは,国会でも採り上げられるほど度々対立抗争を繰り返し,昭和39年ころ,当時の三代目F1組M4組長,O3連合会O4会長の会談で,三代目F1組及び下部組織は京都の旧市街には進出しない旨の合意が成立し,昭和47年には双方の幹部が兄弟盃の縁組をするなど関係の修復を図った。
しかし,F1組の組織が他の関西地区では飽和状態になって再び京都進出を企図するようになったため,その後もF1組とG1の各下部組織間で,度々対立抗争が発生し,その内容は,概略別表1,2(1は昭和62年3月ないし平成2年12月まで,2は平成3年1月から平成8年7月までの分)のとおりであり,その端緒としては,例えば別表2の対立抗争に関しては,@ 縄張りや利権争いなど資金源に関するもの(同表4,5,8),A 組織の分裂や構成員の鞍替えなど組織防衛に関するもの(同表1),B 組員同士の喧嘩,金銭上のトラブル,女性問題,飲酒の上での口論など下部構成員間の些細な紛争に関するもの(同表2,3,6,7。同7が本件である。)であり,その和解(手打ち)については,別表2「和解動向等」のとおり,対立抗争当事者である下部組織ではなく,各1次組織の会長,若頭,(総)本部長,若頭補佐等が当たる場合が多かった。
なお,本件誤殺事件より前には,対立抗争を起こしたことで,五代目F1組総本部及びその下部組織において,下部組織または下部構成員に対し何らかの処分が行われた形跡はない。
ウ 全国における五代目F1組の勢力範囲及び構成員数の推移は下記(ア)のとおりであり,京都府下における五代目F1組及びG1の組織数及び勢力の推移(いずれも12月末現在)は,下記(イ)のとおりであり,全国における勢力に比べて,京都府においてはG1の方が優勢ではあるが,年々,五代目F1組が相対的に勢力を拡大し,G1は縮小する方向にある。
(ア) 時期 勢力範囲 構成員 全指定暴力団内における比率
平成5年3月 1都1道2府38県 約2万3100名 52.1%
平成6年4月 1都1道2府38県 約2万3100名 46.3%
平成7年2月 1都1道2府38県 約2万3100名 45.7%
平成8年3月 1都1道2府39県 約1万8300名 44.0%
平成8年12月 1都1道2府39県 約1万8300名 44.7%
平成9年12月 1都1道2府39県 約1万8300名 45.2%
(イ) 時期 F1組 G1 全暴力団
平成4年 18組織約510名 92組織約1810名 121組織約2460名 14.9% 20.7%
平成5年 21組織約420名 85組織約1430名 116組織約1950名 18.1% 21.5%
平成6年 27組織約410名 76組織約1160名 112組織約1670名 24.1% 24.6%
平成7年 31組織約410名 70組織約1130名 107組織約1610名 29.0% 25.5%
平成8年 29組織約420名 65組織約1100名 99組織約1570名 29.3% 26.8%
平成9年 31組織約410名 57組織約1070名 91組織約1500名 34.1% 27.3%
平成10年 34組織約440名 52組織約 970名 88組織約1470名 38.6% 29.9%
{F1組の各時期下段の比率は,京都府における全暴力団におけるF1組の比率(組織数比,人員比)である。}
(4) C組について
1審被告Cは,昭和43年ころ,岐阜市内でP1内C組を結成し,その後三代目F1組P2組のP3から親子の盃を受けてP2会C組を組織し,昭和52年ころP2会若頭となり,昭和55年ころ京都市b区内のマンションの1室に事務所を構えたが,昭和53年7月にP4組系P5組員によるF1組三代目M4組長に対する襲撃に端を発したいわゆる大阪戦争といわれる抗争で,昭和58年1月20日から12年の懲役刑に服し,平成7年1月30日に満期出所した。同満期出所に伴う放免祝いが五代目F1組総本部で行われたことは,前記(2)ウ(カ)のとおりである。
1審被告Cが服役中のC組は,長期の組長不在の影響で活動も沈滞気味であったが,1審被告Cは,服役中に組長P3の死亡によりP2会の組織を承継したF2を組長とするF3の副会長となり,出所を機にC組の下部組織であるF6興業の組員全員を直参に格上げするなど組織強化をし,12年振りの組長出所に組員全体が組織の盛り返しを賭けて意気込む状態にあった。
そして,後記14連発抗争など五代目F1組の下部組織とG1の下部組織との対立抗争の際には,C組が直接の当事者でない場合であっても,その都度待機または集合の指令が出ていた。
C組の構成は,副長P6及びP7,組長代行F6,舎弟頭P8,若頭F10,本部長F4(F5会長),舎弟F7,若中1審被告Dなど総勢3,40名であった。
1審被告Eは,F4の配下であったが,C組員として活動している者で,平成6年12月ころ,1審被告Dと同Eは,C組定例会で初めて顔を合わせ,その後,F3の事務所当番で顔を合わせるなどして顔見知りになった。
(5) 本件誤殺事件の経過
ア G1G2組のG2組長の,五代目F1組Q1組Q2組組長に対する借金問題に端を発し,平成7年6月14日から同月15日にかけて,京都市において(結果としてはいわゆるガラス割りに終わり受傷者はなかった。),G1関係の(括弧内は五代目F1組下部構成員の検挙状況),@ 2次組織G2組事務所(2次組織Q1組内の3次組織組員を検挙),A G2組長の自宅(Q1組内の3次組織組員を検挙),B 2次組織O3会内の3次組織Q3組事務所,C 1次組織の本家事務所であるG1会館,D 2次組織Q4会事務所,E 2次組織Q5組事務所(2次組織N10組の3次組織組員を検挙)が銃撃された。一方,F1組関係の(括弧内はG1下部構成員の検挙状況),@ 2次組織Q1組内の3次組織Q2組事務所,A 上記Q1組組員の自宅兼建設会社事務所,B 3次組織Q6組事務所,C 2次組織Q7組関係者の経営するスナック(G1下部構成員を検挙),D上記Q7組内の3次組織Q8組事務所,E 上記Q6組の関連会社,そして,双方の組織と関係のない元Q9協議会役員方のドア,看板等に拳銃が発砲されるという事件が発生し(以下,「14連発抗争」ともいう。),大津市,滋賀県八日市市においても,G1の2次組織Q10組事務所や同フロント企業に銃弾が撃ち込まれた。
同対立抗争の際には,五代目F1組下部組織事務所には,下部構成員が集結することがあった。
京都府警ではF1組下部組織とG1下部組織との対立抗争に発展するのを警戒して,下鴨署に「連続銃器発砲事件対策本部」を設置して厳重な警備体制を敷いていた。
上記の件については,同月17日,G1側が会長のO5,若頭O6(O3会会長)ら,五代目F1組側が若頭Q1(当事者であるQ2組の上部団体であるQ1組組長),Q11若頭補佐(N5組組長),N10若頭補佐(N10組組長)が,借金問題の当事者であるG2組組長とQ2組組長が話し合いにより問題を解決するように努めるということで五分の和解を成立させた。
イ S事件の発生とその後の経緯
(ア) しかし,その後も,京都駅前開発に利権を求めて京都に進出し,F1組,G1のいずれの組織にも属しない暴力団Q9協議会との軋轢等から,京都市内または京都府八幡市内において,7月11日,五代目F1組3次組織Q12組組長の自宅に,同月24日,五代目F1組2次組織Q13会会長の自宅に,同月27日,Q9協議会議長の自宅に,8月2日Q9協議会議長との交友者(普通乗用自動車運転中)に,同月19日,G13次組織のQ14組組長(普通乗用自動車運転中)に,それぞれ発砲がなされ,上記Q9協議会との交友者は死亡する事件が続いた。
京都府警は,発砲事件の再発を警戒して,Q9協議会議長宅のほか,下鴨署管内ではG1下部団体のG2組,Q15会,Q16総業,Q17会,Q18会,さらに,F1組直系組長による2次組織二代目F8,前記Q2組に対する流動・固定警戒を実施していた。
(イ) G1直参のG2組長,同じくG3組長,G4組長の3名は,8月24日午後9時ころから,京都市f区のSの繁華街所在のクラブでそれぞれ水割り数杯を飲酒した。
その帰途,同日午後11時19分ころ,折から食事のためにSに赴いたF9(F1組の2次組織である二代目F8の元本部長であったが,同組を脱退していわゆる堅気となり,G2組長とは古くからの顔見知りであった。)及び面識のない同伴者2名(C組々長代行F6,舎弟F7)と出会った。
F9は,G2組長に「おはようございます。」と挨拶し,G2組長がF9に「おはようさん。いつ帰って(出所)きたんや。元気にしてはりまっか。」と出所をねぎらった。
しかしながら,傍らにいたG3組長(二代目F8先代組長時代からF9の顔だけは見知っていた。)が,F9に対し,「F9(F9),元気にしてんのか。」と声をかけ,F9から,「あんたに呼び捨てにされる筋合いはないと言われたことに対し,「F9やからF9やないかい,不服かい。」と見下すような言動をしたため,雰囲気が一挙に険悪化した。
F9を止めに入ったF6は,G3組長に対し,「あんたらどこのもん(組)や。」と質問したところ,G3組長が「お前らこそどこのもんじゃい」と逆に問い返したので,F6が「Cの者や。」と答えた。
すると,G3組長,G4組長がこもごも喧嘩腰で「Cがどないしたんや。」「Cが何ぼのもんじゃ。」などとC組を侮蔑する態度に出た。
当初,双方のやり取りを遠巻きに見ていたF7は,G3組長,G4組長が「Cがなんぼのもんじゃ。」などのC組の面子をつぶす言葉を口にしたのを聞き,C組そのものを侮辱していると感じ,C組の看板を背負っている以上,相手を徹底的にたたきのめさなければならないと考えた。
そして,「C組がなんぼのもんじゃと。上等やないかい。」と言って,至近距離からG2組長に対し,所持していた拳銃を発射して左腕に命中させた。これを見たF9は,組同士の対立抗争になると感じ,F6と共に,「やめとけ。」等と制止に入ったところ,次にF7がG3組長を狙った弾が,手を広げて止めに入ったF6の右腕を誤って射抜いて負傷させた。
F7を除く5名は,14連発抗争で警察が警戒を緩めていない京都の,しかも京都最大の繁華街における拳銃発砲という予想外の展開に驚いたが,G2組長がF9に対し「F9ちゃん,俺の手に入っとんねん。このまま散ろな。」と言って,G2組長ら3名は北方面に,F9に「散ろ,散ろ。」と促されたF6,F7は南に逃走した。
逃走途中のF7は,C組事務所に対するG1の各組織からの報復を恐れて,組当番に「SでF6代行と居て揉めた。相手はG1のG2組組長とG3組組長や。連絡を入れてくれ。」と要点だけを連絡をした(捜査当局は,発砲後間もなく事件の発生を認知したが,当局者のうちには14連発抗争の再燃と感じた者も多かった。)。
(ウ) F6,F7,F9は,逃走中,タクシーに乗車し,同日午後11時40分ころ,C組事務所付近でタクシーから降車し,F6が電話でC組事務所に,「G1のG2,G3,G4と揉めたから気つけよ。わしも手に怪我をしたが大丈夫や。」との連絡をしたが,身内のF7の発砲により受傷した事実までは告げなかった。そして,F6は,G1の各組織からの報復を考え,F7に対し,「わしもおまえもCの者とバレとるから,事務所には上がらん方がええやろ」と言って,C組事務所には立ち寄らず,3名はそこで別行動を取ることになった。
F9は,3人の中でG2組長に唯一名前を知られていることから,タクシーで兵庫県伊丹市内の友人宅に身を隠し,F6は,発砲者F7にホテルを指示して身を隠させ,自身も知人のマンションに身を隠した。
当日,C組の事務所当番であったR1(以下「R1」という。)は,F7からS事件の連絡を受け,事務所に居合わせたR2(以下「R2」という。)に対し,慌てた様子で,「非常事態が起こった。
Sで非常事態や。組員に連絡を取れ」と言って,1審被告Cに連絡して指示を受け,C組組員やC組本部長のF4,F6興業事務所と連絡を取り,「SでF6代行とF7が揉めた。相手はG1のG2組長とG3組長だ。」と連絡をした。京都市b区所在のスナックで飲酒していたF4及び1審被告Eは,C組事務所からの連絡を受け,Sに向かったが,京都市f区所在の八坂神社の手前で,C組事務所から「すでにF6代行らは,Sにはいないので事務所に戻れ。」との電話を受けて,C組事務所に向かい,翌8月25日午前零時過ぎころC組事務所に到着した。
1審被告Eは,C組事務所が緊張した様子であり,組員に招集が掛けられているように感じており,そのころ,1審被告Dから電話を受けて呼び出されたので,F4に対し,「Dさん(1審被告D)を迎えに行ってきます。」と断り,F4から,「オオ,分かった。行って来い。」と返事されたので,京都市b区所在のR3ボ−リング場に1審被告Dを迎えに行った。(甲A18,19には,F7がC組事務所に電話をした後,10分から15分後に,F7からR2に再度電話があり,「もう引き上げさせてくれ」という電話があったたため,R1とR2で,C組組員に対し,自宅待機の解除の電話をした旨の内容があるが,電話の内容やF4及び1審被告Eの行動,前後の緊迫した状況を考えてると,上記証拠は直ちに採用することができず,自宅待機が解除されたとは認められない。)。
R1またはR2が,同日午後11時半ころ,1審被告CにS事件の連絡をしたことは前記認定のとおりであるが,1審被告Cがどのような指示をしたのか,また1審被告Cがその後どのような行動を取ったのかはこれを認定するだけの証拠はなく不明というほかはないが,1審被告CがC組とG2組等の対立抗争を避けるために,何らかの具体的行動を取った形跡はない(1審被告C本人は,最初連絡を受けた際に,S事件は酒の上での喧嘩なので,重大事件が起きるとは思わず,事態の推移をみるためにC組事務所当番に自宅待機を指示したが,後でF7と同当番が相談して,自宅待機も解除したようである旨供述する。
しかしながら,上記1審被告CのS事件の受け止め方は,R1,R2らの受け止め方とかけ離れており,F4,1審被告EらがC組事務所に駆けつけていることや後記G2組の対応からしても,自宅待機だけを指示したのか疑問であり,事務所への集合やF3等への連絡を指示し,またC組組員らのG2組らへの攻撃を容認していたのではないかとの疑いがあるが,1審被告Cの関与や上部組織の関与について,本件に現れた証拠によっては上記疑いを事実として認定することはできない。)。
(エ) 一方,G2組事務所でも,組長代行,本部長ほか1名が,S事件勃 発直後,G1本部事務所等から「G2組長が撃たれて府立(医大)病院で治療中」との一報を受け,組長代行,本部長が急遽病院に駆けつけ,残った組員が他の組員に事務所への招集をかけた。組長代行らは,治療に付き添っていたG3組長,G4組長から,F9の同伴者(氏名はわからなかった。)から撃たれたとの説明を受けたが,すでに病院には多くの警察官が駆けつけており,G2組長が「大丈夫,大げさにするな」との意向であったため(なお,G2組長と1審被告Cは,指定暴力団としては別の組織に属するが,以前から知り合いであった。),同組長から「組員を引き揚げさせること」の承諾を得,そのころ駆けつけた若頭にも「親分は命に別状はない。みんなを事務所に引き揚げさせて,自宅で待機させたらどうや。」と告げて事務所に帰った。
すでにこのころのG2組事務所には,S事件発生の報を受けて警察官が警戒警備して,その出入りはボディチェックを受けるような状況であった。
(オ) 前記(エ)のとおり,G2組事務所に招集をかけられ,同事務所に駆けつけたR4(以下「R4」という。)は,同組幹部として活動していた者であるが,G2組長が治療を受けていた病院に赴き,他の組員と警察官の会話内容から,G2組長がF9の連れの者(氏名不詳)から拳銃で撃たれたことを知り,F9を脅して発砲者を特定し報復することを決意し,G2組組員のR5と共に,G2組本部長名義の普通乗用自動車を運転し,F9方前に出向いた。
しかしながら,夜中でもあり,すでに電気が消えて人の気配もなかったことから,8月25日午前2時30分ころ,F9宅の玄関ドアに拳銃を発砲して逃走した。
ウ 本件誤殺事件
(ア) 1審被告Dは大阪府東大阪市に妻子と居住し,C組2次組織であったF6興業の組員として大阪方面を活動の本拠とする者で,前記のとおり,1審被告Cの出所後にC組の組織強化のために同組直参に昇格したばかりであったが,日ごろ,毎月8日にC組事務所で行われる定例会では,幹部組員から,「極道の喧嘩は絶対に後には引くな。抗争と思ったら指示を受けることなく先に走れ。」などと教えられていた。
そして,前記(2)ウ(カ),(4)のとおり,C組長がF1組とP4組の大阪戦争と呼ばれる抗争事件で服役し,刑務所を出所した際には,F1組の功労者として出迎えられたこと,C組若頭補佐は,F1組とM6とのR6戦争と呼ばれる抗争事件に参加したことで,服役中に若頭補佐に昇進したこと(出所時に若頭に昇進した。)などを知っており,暴力団組織に入った以上は,手柄を立てて組織内で出世したいと考えていた。
(イ) 1審被告Dは,8月17日ころから女性を伴って各所のホテルを泊まり歩くなど遊興し,S事件の勃発した8月24日夜は京都市内のホテルに投宿中であったところ,同月25日午前0時ころ,ポケットベルへの連絡からF6興業事務所に電話を入れ,組員のR7から「京都SでG1の者とC組のF6代行,F7が揉めてF6代行が怪我をした。お前今どこにいるんや。みんな待機がかかっているし,連絡を取れるようにしておけ。」と教えられたが,R7もそれ以上の詳細は知らず,S事件の詳細を知ることはできなかった。
1審被告Dは,R7から上記電話の内容を聞き,自分がかつて親分と仰ぎ関係の深いF6(その後,S事件で負傷したことを警察に発覚することを恐れるF6から,直接電話で警察に通報する可能性のない医者の紹介を依頼されている。)が,G1の者に怪我をさせられたと誤信して憤慨し,C組,ひいてはF1組を見下したG1にケジメをつけさせてC組,ひいてはF1組への貢献をし,日ごろから考えている暴力団員としての手柄を立てるよい機会であると考えた。
そのため,所持している拳銃を使用して相手方であるG1の構成員を殺害しようと考えたが,S事件の詳細,F6に怪我をさせた相手方が分からない状態であり,C組事務所にあまり顔を出していなかったことから,同事務所に電話をかけるのも躊躇し,C組組員と共に活動し,個人的に親しい1審被告Eに電話をして呼び出した。
そして,常時所持していた拳銃を持って,待ち合わせ場所であるC組事務所近くのR3ボウリング場に向かった。
8月25日午前1時ころ,待合場所に来た1審被告Eは,S事件の詳細を尋ねる1審被告Dに対し,「うちのF6代行とF7さんがG1のG3組長,G2組長と揉めたみたいですわ。」「少し前にC組事務所にG2組の若い衆と思うけど,『おまえとこのC組長の玉(命のこと)取ってやるから待っとけ』と電話が入っていますのや。」と伝えた。1審被告Dは,1審被告Eの話を聞いてますます憤慨し,手をこまねいていたらG1側から攻撃される可能性がある,G1側が動くのなら先手を打ってこちらから先にG1側の人間を殺害しなければならないとの意を強くした。
そして,1審被告Eの運転してきたC組若頭所有の普通乗用自動車に同乗してG3組事務所,G2組事務所への案内を指示し,1審被告Eの「これから見に行くんですか。」との問いに対して,「いらんこと言うな。とりあえず言われたとおり走っていけ。今日はどうなるか分からんぞ。」と答えた。
(ウ) 1審被告Eは,同Dの指示で,普通乗用自動車を運転し,G3組事務所(発見することができなかった。),G2組事務所を発見すべく徘徊したが,当初は,G1側が攻撃してきた場合,C組側から報復が必要であり,そのためG1側の事務所の場所を確認し,同組員の状況を偵察するためと考えていた。
しかしながら,途中から,1審被告Dの攻撃意思に気づき,ためらいを感じたものの,臆病風に吹かれたとして暴力団の世界で笑い者になることをおそれ,最後まで1審被告Dと行動を共にすることにし,同日午前4時13分ころ,1審被告Dが本件誤殺行為を行った。
エ 本件誤殺事件後の経緯
1審被告D,同Eは,本件誤殺事件後,車で逃走し,途中車を路上放置し,拳銃,空やっきょう等を草むらに隠匿し,京阪電車,タクシー等を乗り継いで,JR和歌山駅まで逃走した。
1審被告Cは,8月25日朝になって,本件誤殺事件の発生を知り,経過からしてC組員の敢行した事件である可能性が強いため,これを上部団体F3のF2会長に報告し,その後,1審被告D,同Eの犯行であることをF2会長に報告した{1審被告Cが,その他にどのような行動を取ったかは不明である。前記ウ(イ)のとおり,1審被告Cの命を狙うとの情報があり,後記のとおり,1審被告Cは,1審被告Dら3名の警察への出頭に同行していないことや,本件誤殺事件後の捜査中にも,警察に出頭しなかったこと(甲A45,49)などからすると,殺害を避けるために身を隠していたのではないかと推測される。}。
早朝から警察官射殺という本件誤殺事件が大々的に報道される中,8月25日午後,五代目F1組総本部で緊急幹部会が開催され,その決定を受けてF2と1審被告CがS事件,本件誤殺事件にかかわった1審被告D,同E及びF7の3名を警察に出頭させることになり,同日午後9時ころ,五代目F1組Q1若頭,F3F2会長に付き添われた1審被告Dら3名が京都府警下鴨署の捜査本部に出頭し,Q1若頭は,「この度は京都府警に大変ご迷惑をおかけしました。誤ってやったこととはいえ,御上を殺め,尊い命を奪ったことについて,当代(1審被告A)に代わり心からお詫びします。申し訳ありませんでした。」と謝罪した。
そして,8月26日,京都市内のホテルにおいて,S事件から本件誤殺事件を含め,五代目F1組総本部とG1との間で手打ち(和解)が行われた。五代目F1組総本部側の出席者は,直系組長であるQ11,N10,R8の各若頭補佐3名,G1側はO6若頭,R9本部長であり,F3会長の破門などを条件に和解し,F3会長のF2はF1組を破門されてF3を解散し,また,元二代目F8副組長F9に対する監督不行届という理由で,二代目F8組長R10を謹慎処分とした。
オ 本件誤殺事件についての刑事処分
1審被告Dは,本件誤殺事件で,銃砲刀剣類所持等取締法違反,殺人被告事件で懲役18年の,1審被告Eは,銃砲刀剣類所持等取締法違反幇助,殺人幇助被告事件で懲役7年の判決(甲41)を受け(大阪地方裁判所平成7年(わ)第930号),控訴をしたが棄却の判決(甲42)を受け(大阪高等裁判所平成8年(う)第686号),同判決が確定した。
2 争点(1)(1審被告Cの責任原因)について
まず,1審被告Cの共同不法行為責任について検討する。
(1) 前記認定事実によると,@ 暴力団組織においては,組長と組員は盃事といわれる秘儀を通じて親子(若中),兄弟(舎弟)という家父長制を模した序列的・擬制的血縁関係を結び,組員は親分(組長)に対する全人格的・包括的な服従統制下にあるが,本件誤殺事件の実行犯である1審被告Dも,1審被告Cと擬制的血縁関係にあり,1審被告EもF4を通して同様の関係にあったこと,A F1組とG1は,昭和30年代後半から度々対立抗争を繰り返し,双方の幹部が兄弟盃の縁組みをしたり,対立抗争の際に,双方1次組織の幹部や会長が和解(手打ち)をしたにもかかわらず,それを無視するかのように下部組織において対立抗争が何度も再燃した歴史があり,その対立抗争の中には,些細なことを端緒とするものも少なからず存在し,F1組とG1とは基本的に競合緊張関係にあったこと,B C組と直接の関係はないものの,五代目F1組の下部組織とG1の下部組織との間で,14連発抗争が起こり,その間C組においても待機や集合の対応が取られていたところ,その和解からわずか2か月余りでS事件が発生したこと,C S事件は,些細なことが発端ではあるが,G1の縄張り内で,一家,一門を異にする暴力団組織であるC組の組員であるF7により,G1の直系組長であるG2組長が銃器を用いて負傷させられたものであるから,G2組の威信に対する最大の挑戦,屈辱であったこと,D S事件後のG2組長の対応(「F9ちゃん,俺の手に入っとんねん。このまま散ろな。」と言って,F9らと対峙するのを避けたこと),F6,F7,F9の対応(事務所に寄らずに逃走し,ホテル等に身を隠したこと),F7から連絡を受けたR1の反応,C組事務所に駆けつけた1審被告Eが感じた緊張した様子からすると,関係者は,少なくともS事件を端緒としてC組とG2組の対立抗争に発展することを予想したこと,E F7や1審被告Dのように,C組組員には銃器を持っている者がいたこと,F S事件後,G2組事務所では,組員の事務所への招集があったこと,G S事件後,C組事務所には,何者かから「おまえとこのC組長の玉(命のこと)を取ってやるから待っとけ」と電話が入ったこと,HG2組のR4は,F9を脅して発砲者を特定して報復することを決意し,F9方への発砲をしたこと,I 1審被告Cは,S事件直後に,C組事務所からS事件発生の電話連絡を受けていることなどが指摘でき,AないしHの事情によると,本件誤殺事件の発生前には,S事件をきっかけとしてC組とG2組との間で対立抗争が発生する可能性の高い状況となり,対立抗争発生の具体的な危険性が生じていたというべきである。
ところで,暴力団の対立抗争は,擬制的血縁関係による組長に対する全人格的絶対的服従関係の下に,組の威力・面子を維持し,拡大する(組組織の維持拡大をも意味する)という暴力団特有の意識・行動原理に支配されて,対立する組組織及びその構成員の生命,身体,財産に対する攻撃という違法行為を行うことにあるから,これを絶対的に阻止排除すべきことは当然であり,組員を統制支配する立場にあり,唯一対立抗争を回避する決定権を有する組長は,組としての対立抗争が生じ,または生じるおそれが発生した時には,条理上,組員による他人の生命,身体,財産に対する侵害という結果を防止すべき措置をとる注意義務,すなわち,結果回避義務があり,これを怠って被害が発生した場合は,不作為による不法行為を構成する場合があるというのが相当である。平時における個々の組員の活動は,生活の糧を得るシノギ行為であっても,個々の組員が日常的に他人の生命,身体,財産を侵害する犯罪行為を行なっているわけではなく,組長の組員に対する支配統制も潜在的・抽象的な統制関係として機能しているにすぎないのに対し,抗争時もしくは抗争発生の具体的な危険性が生じたときには,組は組織を挙げてこれに対応する必要が生じ,構成員の個々の行動も対立抗争との関係で組織としての行動に集約され,組員が改めて組長の顕在的,具体的な統制支配に厳格に服し,対立抗争に臨むこととなることは見やすい道理であり,抗争及びこれに付随する行為による損害発生の危険は当該組長の行為支配の範囲内に入り,かつ,組織内にあっては組長のみがこれを回避できる地位にあるからである。そして,暴力団抗争への発展過程は,相手方の組織の対応,警察による規制等の諸条件により流動的であるから,抗争原因の発生時から組織全部に伝播して本格的抗争行為に至るまでは相当の情報が錯綜混乱することも予測されるところであり,抗争時に組長の指示を待たずに相手に攻撃を加えることのある暴力団構成員の行動傾向や行動原理からすれば,組事務所や組長の周囲で正確な情報に接することができない組員が,既往の外形的事実だけに依拠して抗争の存在を誤解すべき状況が生じたり,抗争が終息に向かっていることなどを知らないまま,抗争の存在を前提として相手方組員に対する襲撃を敢行,継続する事態の起こり得ることは容易に予見が可能であるから,組長としては,抗争を開始せず,あるいは終息を図ったとしても,なお,組員が抗争の開始,継続を誤信するおそれのある状況が存在する場合にも,改めて攻撃,報復行為を絶対に禁止する旨を徹底すべき注意義務があるといわねばならない。
暴力団員の中には対立抗争において組に貢献することが組織内部における地位の向上につながり,これを期待して過激な行為に出る者が少なからず存在することは前記のとおりであるから,なおさら,組長には,攻撃,報復行為を厳禁することを徹底すべき注意義務があるというべきである。
本件について,これをみると,1審被告Cの立場及びIによると,AないしCの事情は知っていたと認められ,G2組からのC組及びその構成員に対する報復行為が行われ,S事件を契機としてC組とG2組との対立抗争に発展する具体的な危険性を感じていたことは明らかであるといわなければならない。
そして,1審被告CはEの事情を知っていたと推認できるし,1審被告Dの主導により引き起こされた本件誤殺事件は,F6がG1の者による発砲により負傷したという誤解から生じた憤激も一因となっているが,基本的には,抗争と思えば,組長,幹部の意向を忖度して,指示を待つまでもなく,いわば鉄砲玉となって実力行使に及ぶという暴力団特有の団体心理及び行動原理に基づくものであり,これにより,組織内における昇進も期待してなされたものであるところ,1審被告Cの立場や自らも暴力団組織の対立抗争に参加して殺傷行為に及び12年間の服役をし,これにより組織内で昇進した経歴等からすると,1審被告Cの立場では1審被告DによるG2組もしくはその構成員に対する銃器を使用した攻撃の発生を予見することが十分可能であるところ(予見可能性の存在),本件誤殺事件は1審被告DによりG2組組員に対する攻撃として敢行されたものであること,上記@の事情によると(そうした関係の社会的相当性はともかくとして),1審被告Dらが,1審被告Cの全人格的・包括的な統制下にある以上,1審被告Cとしては,組員らにG2組との対立抗争(誤射等によって暴力団員以外の者の生命,身体,財産等への侵害を生じうる危険があることは,暴対法で対立抗争時の事務所制限等の趣旨からも明らかである。)を避けるように指導する条理上の注意義務(回避義務)を負っていたということができる。
しかしながら,前記認定事実によると,1審被告CはC組とG2組等の対立抗争を避けるために,何らかの具体的行動を取った形跡はないから,回避義務違反としての過失があることは明らかである。
したがって,1審被告Cの不作為は民法709条の要件を満たし,かつ同不作為と1審被告D,同Eの行為には関連共同性が認められ,1審被告D,同Eと共同不法行為責任を負担するというのが相当である。
(2) 1審被告Cは,@ S事件は,酔客同士での偶発的発砲事件に過ぎないなどとして,対立抗争の可能性がなかったこと,A 本件誤殺事件発生の予見可能性がなかったこと,B 組員に拳銃の所持を禁止したり,S事件後に自宅待機指示とその解除を通じて回避義務を尽くしていた旨主張する。
しかしながら,前記のとおり,S事件は,C組の構成員がG1の縄張り内においてその直系組長を拳銃で狙撃負傷させたという,G2組にとって最大の屈辱的な出来事であるから,G2組の関係者が報復行為に出る可能性は高く,これを端緒として,C組とG2組との対立抗争となる具体的な危険性が生じており,1審被告Cには本件誤殺事件の予見可能性があったと認めることができ,拳銃所持の禁止や,S事件後の自宅待機指示とその解除については,これを認めるに足りないから,いずれにしても,1審被告Cの主張は採用することができない。
3 争点(2)ア(1審被告Aの使用者責任)について
もとより,民法715条の使用者責任は,少なくとも公序良俗に反しない合法的な事業を前提とした上で,被用者の不法行為について事業執行との関連性に着目して使用者の責任を問うものであるから,本来,暴力団のような不法・不当な利益追求を目的とする団体の非合法な利益追求活動は公序良俗に反するものであるから,暴力団について事業を観念し,使用者責任を論じることが適当であるか疑問がないわけではない。
しかし,暴力団といえども,常に,不法な利益追求活動のみを行っているわけではなく,暴力を組織化することにより形成される威力を背景に,合法非合法の手段を問わず,利益を得るためのシノギと呼ばれる活動をしているのであり,暴力団組織が社会的に実在し,その活動の中で一般社会人・一般社会と様々な接点を持ち,これに様々な影響を及ぼし,危険を招来させ,あるいは損害を被らせるのであるから,暴力団の構成員による不法行為が暴力団の非合法な公序良俗に反する活動に関連していたとしても,使用者責任を基礎づける報償責任,危険責任の法理から,使用者責任もしくはその類推適用により,その責任を問うことが相当な場合もあると考えられる。
(1) 使用者性について
ア 前記認定事実のとおり,暴力団組織においては,組長と組員は盃事といわれる秘儀を通じて親子(若中),兄弟(舎弟)という家父長制を模した序列的・擬制(似)的血縁関係を結び,組員は親分(組長)に対する全人格的・包括的な統制下に絶対服従の関係にあるところ,五代目F1組においては,組長である1審被告Aが盃を交わした119人の組員が組長となってさらに配下の組員と同様の序列的・擬制的血縁関係を結んでおり,この関係が5次組織まで及んでいるから,序列的・擬制的血縁関係の連鎖により,1審被告Aの意向は,1次組織の組員(直系組長)から順次下部組織の組長を通して,5次組織の末端構成員にまで及ぶ構造となっている。
そして,前記認定事実のとおり,下部組織としても一個の暴力団としての実態を備え,五代目F1組総本部に対しても一定の独立性を有するものではあるが,五代目F1組においては,F1組綱領が存在し,意思決定の体制が整備され,1審被告Aの意思またはその意思と同視できる1次組織幹部会(執行部等)の意思が,多様な分野において,現実に各下部組織の組長を通じて下部組織及び下部構成員に徹底される体制となっており,下部構成員を含めて五代目F1組を構成する者として取り扱い,実際上も,執行部等の決定や指示が様々な方法により,下部構成員に伝達されていた。ことに,下部組織の対立抗争については,「告」によって,下部組織や下部構成員は,他団体との抗争発生の場合,速やかにその状況及び理由等を総本部に報告しなければならないとされていること,抗争時の内部規約で,抗争が生じた場合は,緊急幹部会を開いて処分を決め,親分である1審被告Aの承諾を得るとされていること,慶事に関しての規約を定め,1次組織総本部が中心になって行う本抗争,下部組織が中心となって行う準抗争のいずれについても,総本部の認めた抗争事件服役終了者には,総本部等で放免出所者に放免祝いを行う旨定め,実際同規定に従って放免祝いがなされていること,14連発抗争においても,S事件及び本件誤殺事件においても,幹部会またはそのメンバーによって迅速に処分が決められ和解が成立しているなどの事情が指摘でき,系列を異にする暴力団の下部組織の対立抗争については,単に下部組織間の対立抗争というだけでなく,上部組織の威信や面子を背負っての対立抗争という性格をも有することとなるから,上部組織が関与するのでなければ,これを終息させることはできないと考えられること,並びに上記の擬制(似)血縁関係の連鎖も考慮に入れると,1審被告Aは,下部組織の対立抗争についても,1次組織幹部会または1次組織組員を通じて,対立抗争を現実に指揮監督することができる地位にあると認めることができる(五代目F1組について,暴対法3条の「階層的構成」が認定されて指定暴力団とされ,同指定処分が取り消されていないことも,上記認定を裏付けるものである。)。
そうすると,1審被告Cと擬制(似)的血縁関係を結び,1審被告Aに対する擬制(似)的血縁関係の連鎖の中にある1審被告D及び1審被告Eが,C組とG2組との対立抗争(些細な端緒から本格的な対立抗争に及ぶことのあることに鑑みれば,1審被告Dらの本件誤殺事件は対立抗争の初期段階の行為というべきであり,少なくとも1審被告Dが抗争と認識して行ったことは明らかである。)について,1審被告Aと1審被告Dらとの間には実質的な指揮監督の関係があったということができ,本件誤殺行為について,民法715条を適用もしくは類推適用するについて,1審被告Aは使用者としての立場にあると認めることができる。
イ 1審被告Aは,@ 擬制(似)的親子関係(血縁関係)は,血縁関係を結んだ当事者間でのみ効力があること,A 五代目F1組執行部での決定は,執行部の決定であって,Aの意思ではないことを主張するが,前記認定事実のとおり,1次組織の意向が下部団体まで徹底される体制がとられ,実際徹底されている事例が存在するし,擬制(似)的血縁関係の下では,五代目F1組執行部は,1審被告Aの意思の下に選任組織され,しかも,その意思に反することができないことは前記認定説示のとおりであるから,その決定は,1審被告Aの意思とみざるを得ない。
したがって,1審被告Aの主張はいずれも採用することができない。
(2) 暴力団の事業執行性
ア 暴力団の事業と対立抗争
(ア) 前記認定のように,暴力団は,暴力を組織化することにより形成される威力を背景に,合法的な経済活動に止まらず,非合法的な経済活動による利益も取得することを目的として活動し,実際に暴力団組織が社会的に実在し,擬制(似)的血縁関係を基礎に集団としてのまとまりを持って,合法非合法の手段を問わず,利益を得るためのシノギと呼ばれる生計維持活動をしている以上,当該シノギは暴力団組織の事業ということができる(暴対法3条1号も,暴力団組織に事業が存在することを法的に前提にしている。)。
また,暴力団組織が集団としてのまとまりをもつ以上,集団を維持拡大する活動(例えば,集団としての意思決定,その伝達,組員の放免祝い,絶縁・破門・除籍等の処分,組合員の獲得による組織の拡大等)についても,組織にとって不可欠の活動であるから,暴力団組織の事業ということができる。
そして,暴力団組織が,暴力を組織化することにより形成される威力を背景とする点に本質があり,不法・不当な利権性,強固な組織性も暴力性と密接に関連する性格である。
また,これらの本質的な特徴からして,暴力団組織が,いわゆる縄張り(資金源)を維持拡大すると共に,それを可能にする集団の威力とその外的イメージ(暴力の恐怖)の維持・拡大のために,時には暴力団同士の組織を挙げての対立抗争を起こすのは,組織の本質からして必然のものというべきであることは前記認定のとおりであるから,対立抗争は,暴力団組織の事業といえ,仮にそうでなくとも上記のようなシノギや集団を維持拡大する活動である暴力団の事業と密接に関連する行為であるということができる。
(イ) ところで,対立する組織暴力団間の下部組織による対立抗争は,個々の下部構成員の不法行為にとどまらない集団的なものであり,また,当該下部組織だけにとどまらず,いつ何時他の下部組織や上部組織に飛び火するか予測できない性格のものも多く,一旦下部組織間で対立抗争が生じれば,その内容や程度によっては,上部組織が組織全体の維持拡大のために,組織全体で対立抗争に取り組むか,組織の温存のために和解(手打ち)を試みるかなどの選択を迫られるものである。
暴力団は,その特性である組織化された暴力の威力を背景として事業活動を行うことから,対立抗争で敗北することは威力の衰退となり,たちまち,上部組織を含めた組織全体の存亡につながることとなる反面,対立抗争に勝利し,または,その中で組織の威力を誇示することは組織の維持拡大に大きく寄与することとなることから,下部組織の抗争であっても上部組織としては重大な関心をもつこととなる。そして,対立競合する組織との抗争は,暴力団という組織のいわば宿命的なものであることを考慮すると,下部組織の対立抗争ではあっても,それが上部組織や組織全体の威力・威信の維持拡大と密接に関連するときは(前記のとおり,現在では指定暴力団のような大規模組織の1次組織自体が存在を賭けて抗争に取り組むことは稀であり,手打ちによって終息を図ることが多いことから,下部組織による抗争が,いわば代理抗争として1次組織の威力を賭けた抗争という意味合いを持つ場合が多いと考えられる。),1次組織の組織の維持拡大に関する事業ないしこれに密接に関連する行為となりうる。
イ 本件誤殺行為の事業執行性
(ア) 1審被告Aの事業
五代目F1組総本部は,意思決定機関を整備し,1審被告Aの意思またはその意思と同視できる1次組織幹部会等の決定や指示が各下部組織の組長を通じて下部組織及び下部構成員に伝達・徹底する体制を整備しており,実際にも,重要な事項については,その伝達が徹底されているなど,傘下の下部組織及びその構成員に対する統制を強固に行い,下部組織の組員の加入脱退に1次組織執行部が関与し,下部構成員を含む組員に対して多岐にわたって行動に関する規制を行い,慶事に関する規約を規定して,下部構成員まで含めた賞罰を行っているなど,その組織としての一体性が強いと同時に,総じて,五代目F1組総本部はシノギ自体を行わず,下部組織の構成員に,M2の代紋等の使用を許し,それらの者が合法非合法を問わず,活動することによって得た資金の一部を上納させていた(本件誤殺事件当時,1次組織の組員は,舎弟,若頭補佐以上が月額150万円,若中が同65万円を各上納していた。)ほかは,日常的には下部組織を含めた組織の維持拡大の活動をしているとみられる。
すなわち,その果たしている機能,組織の形態に鑑みると,五代目F1組総本部の,すなわち1審被告Aの事業は,外に向かっては,下部組織のシノギ等の活動が容易になるようにF1組の威力の外的イメージ(暴力の恐怖のイメージ)を維持拡大し,対内的には下部組織の管理・利害の調整,下部構成員に対する指示統制及び組への忠誠心の涵養,そして他組織との渉外等を行うこと等の活動がその中核をなすものと言うことができる。
F1組総本部名で作成された「告」(甲B63)の中で,B「F1組組員は他団体との抗争発生の場合,速やかにその状況及び理由等を総本部に報告しなければならない。」,C「F1組組員は如何なる理由があろうとも内部抗争は絶対阻止しなくてはならない。万一事故発生の場合速やかにその地域の幹部に報告し,その指示に従わなければならない。」と規定し,総本部決定事項(甲B97)では,「◎ F1組内のトラブル F1組内に於ける抗争もめ事は一切厳禁とする。
万一トラブルが発生した場合速やかに報告し処理すること,又事故処理に関わるブロック長執行部は公平で適確な判断処理をすること」,抗争時の内部規約(甲B96)では,「内輪であるかないかの確認をはっきりさすこと」として,五代目F1組総本部は,下部組織による他団体との対立抗争に重大な関心を持ちつつ,F1組内のトラブルと異なり(これは上記のように厳禁されている。),他団体との対立抗争自体を厳禁しているわけではなく,むしろ,慶事に関しての規約(甲B24)を規定して,総本部,すなわち1次組織が主体となって行う本抗争だけでなく,準抗争として,下部組織が行う抗争も放免祝いの対象としているから,五代目F1組においては,下部組織と他団体との対立抗争は,必ずしも厳禁すべきものではなく,場合によって奨励すべきものという態度をとっていることが明らかである(実際,些細な端緒による下部組織の抗争であっても,これによりF1組という看板の威力が増大すれば,F1組の1次組織にとっても有益であることから,F1組総本部が抗争の関与者を功労者と認めれば,内部的な表彰や昇進も行ってきている。)。
そうすると,五代目F1組総本部としては,下部組織の他団体との対立抗争を五代目F1組組織の維持拡大の活動に関係すべきものとして位置づけているということができる。
これは,@ 前記認定事実の通り,下部組織の対立抗争であってもこれにより威力を誇示することが上部組織の威力の維持拡大に寄与し,組織の拡大,シノギ活動に寄与する暴力団組織特有の性質や,A 実際に,「F1組の歴史は抗争の歴史である」と言われるように,五代目F1組に至るF1組の歴史において,F1組が1次組織から下部組織まで含めて,他の暴力団組織との対立抗争を多数経験して組織を大きくしてきたこと(下部組織が対立抗争を繰り返すことによって,1次組織の暴力,組織の力を暴力団社会の中で誇示することに機能し,F1組の傘下に連なる組織が増加したことも否定できないと思われる。),B 京都府においては,G1と盃を交わしても,下部組織の対立抗争は続発しており,上部組織同士の緊張関係も継続しているとみられ,その中で,五代目F1組は徐々に勢力を強め,G1は勢力を弱めていることともよく附合する。
このことからすると,五代目F1組総本部は,いわゆる本抗争だけでなく,下部組織の抗争のうち準抗争として表彰の対象としている抗争,1次組織の中核たる活動である組織の維持拡大(威力及びその外的なイメージの維持増進も含む)に直接関連する他団体との対立抗争については,五代目F1組総本部の事業と位置づけているということができるから,これらに該当する限り,下部組織の抗争に関わる下部構成員の不法行為は,1次組織の事業,またはそれに密接に関連する行為ということができる。
なお,Aは,五代目F1組の1次組織の代表というべき者とも言えるが,1次組織自体は,団体としてのまとまりを有するものの,法人格を取得しておらず,綱領を有するものの,多数決原理等を認めておらず,その意思は,組長(親分)である1審被告Aの意思により決定されること,団体としての財産がAの個人財産と区別されているか判然としないなど,権利能力なき社団ということもできないから(組合でもない。),その法律効果は,最終的にはA個人に帰属するものと見るのが相当である。したがって,1次組織の事業は,1審被告Aの事業と見るほかない。
(イ) 本件誤殺行為と1審被告Aの事業執行性
a 前記認定事実によると,本件誤殺行為を起こした1審被告Dは,C組の下部組織であるF6組からS事件の情報を得,C組等所属暴力団への忠誠と手柄を立てたいとの暴力団特有の思いを動機とし,C組に関係する1審被告Eを呼び出し,C組若頭所有の車を利用するなど組織の繋がりを利用して現場に赴き,S事件についてG2組等のG1の関係者によってC組のF6が負傷したと誤信して,G2組事務所付近で,対立抗争の先制攻撃として,被害者を同組組員と誤認して本件誤殺行為を敢行したのであるから,1審被告Dの行為は,私的な性格の行為とは到底いえず,動機,態様,結果すべてにわたり暴力団特有の不法行為であるということができる。
b そして,前記2の認定説示のとおり,S事件は,G1の縄張り内における直参組長に対する攻撃であり,G2組にとって最大の屈辱であり,所属の組員による報復行為が当然予想され,実際にR4等の反撃行為も始まっていたのであるから,本件誤殺行為は,外形的に見れば,C組とG2組との間で本格的な対立抗争に発展する過程において生じた行為であるということができる。
加えて,@ F1組とG1は,昭和30年代後半から度々対立抗争を繰り返し,兄弟盃の縁組みをしたり,対立抗争の際に,双方1次組織の幹部や会長が和解(手打ち)をしたにもかかわらず,それを無視するかのように双方の下部組織が何度も対立抗争を再燃してきた歴史があること,A S事件に先立つ14連発抗争は,G1会G2組組長のF1組Q1組内Q2組組長に対する借金問題に端を発しているが,銃弾はG1の本部事務所やG2組以外の他のG1系組事務所及びQ2組以外のF1組系組事務所にも打ち込まれており,抗争の直接の当事者以外にも広がりを見せていたこと,B C組は,14連発抗争などF1組の下部組織とG1の下部組織との対立抗争の際には,直接の対立当事者ではなくとも,その都度待機または集合の指令を出して対立抗争の連鎖を具体的に予想して対応しており,他の下部組織でも概ね同様であったと推測できること,C 客観的にみれば,14連発抗争からS事件や本件誤殺行為までは2か月余りしか経過しておらず,五代目F1組とG1の下部組織間には対立緊張関係が残っていたこと,D S事件そのものが,G3組長やG4組長によるC組の組織としての威信・面子を毀損する言動に触発されて発生したもので,14連発抗争によるG1と五代目F1組との緊張関係も考えると,C組をはじめとした五代目F1組の下部組織にとって,G3組長らの上記言動は,五代目F1組そのものの侮辱として看過し得ないものであったこと,ES事件に続いて,1審被告Cの命を狙う電話がC組事務所に入っているが,実際に狙われることがあれば(当事者である1審被告Cが,実際に狙われる危険を感じていたことは,前記認定のとおりである。),C組は五代目F1組の3次組織ではあるものの,1審被告Cが,五代目F1組の直系組織であるF3の副長という地位にあることからして,五代目F1組全体の中で,C組だけの問題にとどまらないのは明らかであること,F 本件誤殺行為を実行した1審被告Dの動機には,C組,ひいてはF1組を見下したG1にケジメをつけさせ,C組,ひいてはF1組への貢献をすることが含まれており,C組,F1組の威信を示し,その面子を守るという暴力団組織の維持拡大に係わる動機があったことなどの事情を指摘することができる。
以上のような事情の下で,1審被告Dの拳銃発射行為は,C組と対立するG2組の事務所前において,C組,ひいてはF1組の威信等を示すために,G2組員に対する攻撃としてなされたものであり,それが,たまたま,警備に当たっていた警察官が被害者になったというもので,1審被告Dの目的のとおり,死亡した被害者がG2組組員であった場合には,C組とG2組の本格的対立抗争に拡大し,場合によっては飛び火して,五代目F1組とG1の他の各下部組織や,場合によっては1次組織まで拡大する可能性もあり,また,そうでなくても,C組とG2組との対立抗争が,実質的に五代目F1組とG1の各1次組織の威力を賭けた代理抗争となった可能性は十分にあるということができ,本件誤殺行為がその抗争の最初の一撃となったことは否定できない(本件誤殺事件では,組員と誤認されたB5警察官が死亡しており,これがG2組組員であったとすれば,いわゆるガラス割りに終わり,犠牲者が出ていない14連発抗争が上部組織により速やかに手打ちをしたことと同一に論じることができないことはいうまでもない。)。
また,暴力団の構成員が,個人的な動機ではなく,対立する暴力団事務所を襲って拳銃を発射した行為は,一般社会から見て暴力団同士の対立抗争と評価されることはいうまでもない。
c 以上の事情に加えて,本件誤殺事件の後,直ちに,五代目F1組総本部とG1の両幹部がC組とG2組の和解をさせ,五代目F1組総本部は,F3のF2にその責任を問うて破門すると共に,F3及びその下部組織の解散することを決定していることからすれば,五代目F1組総本部は直系組長を破門するだけでなく,その下部組織の解散をも決定しうる事実上の権限を有していたとみられ,実際に本件ではその権限を行使したこと(前記イ(ア)の認定説示のとおり,五代目F1組の1次組織及び1審被告Aが下部組織間の抗争に対して有している関心や姿勢からすると,上記処理等が単なる後始末であるとは評価できず,五代目F1組総本部が下部組織の破門や解散などとして対応したのは,あくまで被害者が警察官であったためにすぎないと考えられる。),前記(1)アのとおり,下部組織間の対立抗争についても,1審被告Aは,1次組織幹部会または1次組織組員を通じて,対立抗争を指揮監督しうる立場にあったことも指摘できる。
d 以上によると,本件誤殺行為は,1審被告D等の私的な性格の行為ではなく,動機,態様,結果すべてにわたり暴力団特有の不法行為で,C組とG2組との間で対立抗争が発生する具体的危険が生じていた中で,C組,ひいては五代目F1組の威信等を示すことを動機に持ち,最終的には1次組織にまで対立抗争が波及しかねない五代目F1組の1次組織の威力・威信に影響を及ぼすべき行為であり,下部組織の行う他団体との抗争に対する五代目F1組総本部の対応に照らせば,被害者が1審被告Dの狙いどおりG2組組員であった場合,本件誤殺行為は五代目F1組の威力・威信を維持するのに有益な行為と評価され,功労者として表彰される可能性もあったこと,しかも,本件誤殺行為は,組織の構造として,1審被告Aの指揮監督下にあった行為であると評価することができるから,1審被告Cの事業のみならず,五代目F1組の1次組織,すなわちその責任者である1審被告Aの中核たる活動である組織の維持拡大(威力及びその外的なイメージの維持増進も含む)に直接関連する対立抗争に関わる行為というべきであるから,1審被告Aの事業と密接に関連する行為であるということができる。
ウ 1審被告Aは,@ 本件誤殺行為当時,五代目F1組とG1会は,共存共栄を図っており,S事件は酒に酔った者同士の個人的喧嘩に過ぎないこと,C組長は抗争になるとは予想していなかったこと,1審被告Dの主観的な動機による事件であること,五代目F1組だけでなく,C組も抗争を行おうとはしていなかったことなど,1審原告らのいう抗争は存在しなかったこと,A 本件誤殺行為は,五代目F1組の組織維持のためマイナスにこそなれ,プラスにはなっていないことなどから,本件誤殺行為が1審被告Aの業務執行性を有しない旨主張している。
まず,@についてであるが,確かに,前記のように,本件誤殺行為は,結局,C組とG2組との間でも本格抗争には至らなかったものであり,本件誤殺行為は,1審被告Cの指示の下に行われたものではない。しかしながら,C組では,組員に対し,「極道の喧嘩は絶対後に引くな。抗争と思ったら指示を受けることなく走れ。」などと教えていたのであって,暴力団員特有の行動原理からみても,1審被告Dのような行動に出る者が現れることは容易に予測し得たところ,1審被告Dの行為によりG2組組員が死亡した場合,C組とG2組だけでなく,五代目F1組及びG1の1次組織を巻き込む可能性があった行為であり,そうでなくとも,五代目F1組とG1との威力(威信),面子を賭けた代理抗争となった可能性は高かったもので,本格抗争に至らなかったのは,S事件が警察の厳戒態勢の中で発生し,G2組としても動きが取れなかった状況にあり,たまたま本件誤殺事件の被害者が警察官という,当事者の予期せぬ事態となり,厳しい社会的な批判がされ,F1組,G1の双方とも,早急に組織を防衛する必要に迫られたことによるものにすぎない(本件誤殺行為の事業関連性を判断するについては,被害者が警察官であったことを捨象し,行為の性格を客観的にみるべきである。そうしないと,被害者が一般市民であれば,誤射であることだけで常に事業関連性を否定することになりかねず,相当でない。)。
したがって,本件誤殺行為は,対立抗争の先制攻撃として,対立・緊張関係にある他の組織の構成員に対して行われた殺傷行為であり,本格抗争のきっかけとなりうる最初の一撃であったとみるべきであり(G2組側の最初の一撃はR4の発砲事件である。),上記のようなF1組の組織,対立抗争に対する態度,構成員の意識等に鑑みれば,F1組の威力の維持・増大という1次組織としての五代目F1組の事業と密接な関連性を有するというべきであるから,事前に本格的な抗争がなかったことは事業関連性を否定する理由とはならないというべきである。
元来,些細な端緒で開始された下部組織の抗争が現実に上部組織に波及して大規模な抗争に発展するかどうかは,下部組織の抗争の原因,動機内容等の他,警察の警備状況,暴力団に対する社会的批判の状況等の当該組織をめぐる様々な外的な条件と,抗争により生じる負担や危険との比較衡量,1次組織の組長の意思等にかかるものであるから,下部組織の対立抗争に係る行為と1次組織の事業執行との関連性の検討に当たっては行為の性格を客観的外形的に見るべきあり,事前の本格的抗争の存在や,後日本格的抗争に発展したことは,事業関連性を認める必須の要件とすることは相当でない(そうでなければ,最初の一撃については,その後に仮に抗争に発展しても,事業関連性が否定されることになる。)。
なお,1次組織としての五代目F1組自体が,和解を除いて,C組とG2組との対立にどの程度関与していたかは証拠上明らかではないが,これは使用者責任の場合はむしろ当然であって{前記ア(ア)のとおり,五代目F1組を巻き込む抗争事件に具体的になっていれば(慶弔規定で,本抗争として五代目F1組の総力を挙げての抗争を予定している。),1審被告Aは,具体的な関与や組織上の地位を通じて結果発生について直接的な関与が認められ,共同不法行為としてその責任が問われることになりうるのであり,使用者責任は,そうした段階に至らなくとも認められる責任である。},事業関連性を否定する根拠にはならない。
また,Aについてであるが,前記ア(イ)の認定説示のとおり,下部組織の対立抗争は,短期的にはマイナスの面も大きい場合があることは,指摘のとおりであるが,対立抗争は暴力団の本質に根ざした宿命的なものであり,威力の維持・拡大のためには避けて通れない場合もあるとともに,長期的には,暴力団社会の中ではマイナスばかりではなく,威力の維持増大に寄与することは前記認定説示のとおりであるから,短期的にマイナスだからといって,使用者責任を免れることにはならないというべきである。
以上のとおりであるから,1審被告Aの上記主張は,いずれも採用することができない。
4 争点(3)(損害)について
次のとおり訂正するほかは,原判決「事実及び理由」中,「第3 当裁判所の判断」のうち,「4」記載のとおり(原判決52頁19行目から同57頁23行目まで)であるから,これを引用する。
(1) 原判決52頁19行目,同53頁9行目の各「8019万0779円」をいずれも「7935万7521円」と改める。
(2) 同54頁20行目の「口頭弁論」の前に「原審」を加える。
(3) 同56頁16行目の「補償義務の免除(」の次に,「地方公務員共済組合法50条2項,国民年金法22条2項,」を,17行目の「損害賠償請求権の取得(」の次に「地方公務員共済組合法50条1項,国民年金法22条1項,」を,21行目の「32条」の次に「3項及び弁論の全趣旨」をそれぞれ加え,23行目の「受給権があり,控除は上記各年金の受給権者」を「受給権があるか,または現に受給しているものであり,控除は上記各年金の現実の受給額」と改める。
(4) 同57頁4行目の「額は,」の次に,「原審口頭弁論終結までで,」を,7行目末尾に「なお,原審口頭弁論終結日から,当審口頭弁論終結日までの各年金支給額の確定分がこれに加わるが,後記のとおり,上記金額だけで既に1審原告B1の相続した逸失利益の額3967万8760円を上回り,その超過部分を逸失利益から控除できないため,原審口頭弁論後の年金支給額の確定分は,損益相殺の対象とすることはできない。」をそれぞれ加える。
5 まとめ
以上のとおりであるから,1審被告らのうち,1審被告D,同E,同Cは,共同不法行為により,1審被告Aは使用者責任により,各自,1審原告B1に対し2679万7240円,1審原告B2,同B3,同B4それぞれに対し1782万6253円,及びこれらに対する不法行為の日である平成7年8月25日から支払済みまで民法所定年5分の割合による金員の支払義務を負う。
第4 結論
よって,1審原告らの1審被告らへの各請求は,1審原告B1に対し2679万7240円,1審原告B2,同B3,同B4に対しそれぞれ1782万6253円及びこれらに対する平成7年8月25日から支払済みまで民法所定年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるから認容すべきであり,その余は理由がないから棄却すべきものである。そうすると,原判決中,上記と同旨の1審被告D,同E,同Cに関する部分は相当であり,上記と異なり,1審被告Aに対する請求を全部棄却した部分は相当ではなく,1審原告らの控訴は一部理由があるので,原判決主文2項の1審被告Aに関する部分を変更し,1審原告のその余の控訴,1審被告Cの控訴及び同D,同Eの各附帯控訴は,いずれも理由がないので棄却し,主文のとおり判決する。
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